王子様と野獣

「そう思うならやめればいい。お前の言う通り、もっといい男がいるだろうよ。何があっても必ず幸せにするから自分のものになってほしいって、そのくらいの気概を持つ男がな。……それはそれでいい。俺はお節介を焼きたいわけじゃないし。ただ一言だけ加えるなら、彼女はそれでいいが、諦めるほうの男には、それ以上の気力が必要だからな」

「え?」

「例え運命の恋だろうが、タイミングを逃せば結ばれない。でも諦められねーんだ。運命だから。お前は一生それにもがき苦しむ」


心臓に針が突き立てられたような衝撃を感じた。
たしかに、モモちゃんにはきっと他にいい男が現れるだろう。実際、瀬川はまじめでしっかりしている。
俺は彼女が幸せになるのを見届けて、……そうして、ずっとひとりで年を重ねる。

そうするのだと、彼女の告白を断ったときにはちゃんと思っていたはずなのに、改めて考えればずいぶんと気が重くなるような未来だ。

本部長はいかにも分かったような顔でにやにや笑う。
ああこの顔、ムカつくなぁ。顔には出さないけど。


「たった一度会っただけの女を忘れずにいるだけで、十分運命の要件を満たしてると思うけどな、俺は」

「本部長……どの面下げてそんな……」


ずいぶんとロマンチストなことを……と続けたら、今度は顔を真っ赤にして怒り出した。


「うっせーな! お前がいつまでもぐずぐずしてっからだろ」


ああこの人にはかなわないなと思う。それは今の父に感じたものに似ていた。
まっすぐに母に思いを向ける彼は、俺が願う父の姿そのもので。

彼のようになりたかった。
一心にひとりの人を愛して、幸せにできる人に。

彼の血を受け継いでいないことが悲しかった。
どうして俺は、母を捨てた男の子供なんだ。

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