王子様と野獣

実の父はアメリカ人で、大学教授だ。
当時キャバクラで働いていた母と出会った時はまだ、日本に留学していた研究生だったいう。

留学期間が終わっての別離だったようだが、妊娠させるような行為をしておいて、帰国したから妊娠を知らなかったなんていいわけだ。

その後、彼は再び日本に戻り、八歳の俺を見つけとても驚いた。
母にも復縁を迫ったけれど、そのころには母は今の父と出会っていたので、それが叶うことはなかった。

中学を卒業する前、彼は俺に会いに来た。
日本の大学での仕事が終わり、アメリカに帰る前にどうしても顔が見たいと言って。
涙目で、『君を愛しているよ』と語った父の姿を見て、俺の中の何かが壊れた。

気持ちが悪かった。
ひとりよがりの愛をぶつけて、自己陶酔するこの男が。

アンタが俺の何を知っているって言うんだ。
一緒に暮らしたことも、一緒に遊んだこともない。
俺の何を見て、愛しているなんて言えるのか。

鏡を見るたび、その男にそっくりな自分に嫌気がさす。
思わずたたきつけて、学校のトイレの鏡を割って問題になったこともある。

その後しばらく、金髪をどうにかしたくて、黒に染めた。
だがすぐ伸びてくる髪は染めても染めても追いつかない。

『浅黄、何を考えているんだか知らんが、お前は金髪が似合う。学校は地毛なんだから染めなくてもいいと言っている。自分らしくしていろ』

キリがないその行動を辞めたのは、今の父の言葉がきっかけだった気がする。
俺は自分に自信がない。実の父親とそっくりな自分が嫌で仕方がない。だから自分が誰かを幸せにできると、どうしても思えない。
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