王子様と野獣


「だってよ、馬場。あーもう、やってられねぇなぁ。」

「……モモちゃん」


熱のこもったあさぎくんの声に心臓が騒ぐ。
呆れてるかな。振られたのに、まだこんなこと言っちゃう私に。
だけど、運命だって思っちゃったんだ。再会したあのとき、一瞬にして会わなかった期間が無くなっちゃったみたいなあの感覚。幼いころのときめきが、今のときめきに変わったその瞬間に。

あさぎくんはゆっくり私から腕を離し、のぞき込むようにして視線を絡めた。
どこか余裕のなさそうな表情にますます胸をときめかせる私の背中をポンとたたくと、今後は瀬川さんに向かって勢いよく頭を下げた。


「瀬川、ごめんっ」


瀬川さんは眼鏡越しに冷たい視線を投げかける。


「……ホント呆れる。今追い駆けてくるくらいなら、最初っから振るなよ」


ん? 
そういえばどうしてここにあさぎくんが来るの?
さっきたしかに目は合ったけど、彼が私を追ってくる理由なんてないはずだ……。


「やっぱりダメだ。彼女は渡したくない」

「寄ってきた魚が大物だったってようやく気付いたわけ? だったらちゃんとそう言ってやれよ。かわいそうだろ、振り回して」


一体何が起こっているの。あさぎくんは何を言っているの。
こんなの期待するなってほうが無理だよ。

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