王子様と野獣


「それは……さっき、本部長が怒っていそうだったから、主任のことが心配だっただけですっ」


ああもう、恥ずかしいことを言ってしまった。
顔が熱くなってきて、上げられなくなってしまった。


「俺を待ってた?」

「う……待ってたって言うか、別にストーキングをしようとかそういうことじゃないですよっ」

「そんなことを疑ってるわけじゃないけど……、待っていてくれたんならありがとう」


声が優しい。私、単純だから、これだけでドキンとしてしまう。
……いやでも待って、私はたしかに振られたんだから、あんまり図に乗ってはいけない。


「そんな風に優しくしないでくださいよ。私……」

「モモちゃん、俺、金曜のことを撤回したい」

「は?」


あさぎくんは私の右手を持ち上げて、その上に左手を重ねた。心臓がまた暴れだしそうになって、嬉しさと戸惑いがせめぎ合う。でもやっぱりあさぎくんに触られるのは、嬉しい。他の男の人なら、投げ飛ばしたりしたくなるのに、あさぎくんの手だとそこからとろけそうになってくる。


「撤回って、どういう意味ですか」

「モモちゃんと付き合えないって言ったけど、それを撤回したい」


一瞬、頭が真っ白になって、彼の顔を見上げた。真面目な顔だ。冗談ではないらしい。
でも……、でもそれって。

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