王子様と野獣

その時、あさぎくんが小さく呪文のようにつぶやいた。


「……諦められないって気づいたんだ。運命だから」

「え?」

「俺は君を傷つけたくないから、俺なんかじゃないほかの男と付き合えばいいと思ってた。だけど、君の視線が、他の男に向くと考えたら、なぜだかじっとしていられなくなる。さっき、君が瀬川を支えるように歩いているのが見えて、……頭が真っ白になった」

「あ、あれは肘鉄を食らわせてしまったからで。……別に、変な意図があったわけじゃ……」


なんなの? それ、嫉妬してるって言ってるみたいじゃない。


「わ、わけがわからないです! 結局あさぎくんは私のこと、どう思ってるんですか!」


混乱するだけだから、遠回しな言葉なんていらない。ただ、今あなたが持っている私への感情が知りたい。
詰め寄った私に驚きつつも、彼は意を決したように言った。


「好きだよ。他の男に渡したくないくらい、好きなんだ」

「はあっ……」


何それ、何それ、何それ。
あっさりそんなこと言うくらいなら、なんで金曜にすぐそう言ってくれなかったの。


「……トラウマは、正直克服したわけじゃないんだ。だから君を傷つけるかもしれない。それが嫌なら、君のほうから俺を振ってほしい」

「何それ、ずるい」


ずるい。私がこんなにあさぎくんのこと好きなの、知ってて言ってる?
< 131 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop