王子様と野獣
その時、あさぎくんが小さく呪文のようにつぶやいた。
「……諦められないって気づいたんだ。運命だから」
「え?」
「俺は君を傷つけたくないから、俺なんかじゃないほかの男と付き合えばいいと思ってた。だけど、君の視線が、他の男に向くと考えたら、なぜだかじっとしていられなくなる。さっき、君が瀬川を支えるように歩いているのが見えて、……頭が真っ白になった」
「あ、あれは肘鉄を食らわせてしまったからで。……別に、変な意図があったわけじゃ……」
なんなの? それ、嫉妬してるって言ってるみたいじゃない。
「わ、わけがわからないです! 結局あさぎくんは私のこと、どう思ってるんですか!」
混乱するだけだから、遠回しな言葉なんていらない。ただ、今あなたが持っている私への感情が知りたい。
詰め寄った私に驚きつつも、彼は意を決したように言った。
「好きだよ。他の男に渡したくないくらい、好きなんだ」
「はあっ……」
何それ、何それ、何それ。
あっさりそんなこと言うくらいなら、なんで金曜にすぐそう言ってくれなかったの。
「……トラウマは、正直克服したわけじゃないんだ。だから君を傷つけるかもしれない。それが嫌なら、君のほうから俺を振ってほしい」
「何それ、ずるい」
ずるい。私がこんなにあさぎくんのこと好きなの、知ってて言ってる?