王子様と野獣

初めて会ったのは、六歳のとき、ただ一度。
だけどずっと忘れられなかった。
あの日のあさぎくんが理想になって、どんどん男の人と縁遠くなって、このままじゃ駄目だから嫌いになろうって思ったこともある。

また遊びに来るって言ったのに、こなかった、嘘つき。
大嫌い、嘘つきだもん。
本当に大嫌い。

そうやって大嫌いを重ねて、嫌いって思いこもうとして、結局は忘れられないまま、私はあなたに再会した。


涙が浮かんできて、咄嗟に握られている手を引き抜いてぬぐった。
あさぎくんは驚いたように私をじっと見る。


「付き合えないって言ったくせに、嘘つき」

「それは……」

「嘘つきなんて、大嫌い」


傷ついたように目をそらしたあさぎくんに、どうしようもなく愛しい気持ちが湧きあがる。


「……になるはずだったのに」


ボロボロと涙がこぼれてくる。ああもう、感情に素直すぎるのどうにか直らないかな。


「くやしいっ。今も大好きぃっ」

「……モモちゃん」


子供の頃みたいに、感情を爆発させて泣いた。

私はもう二十二歳の大人で、路上で泣いていれば当然目立って当たり前で。
通り過ぎる人だけじゃなく、道路の車からも視線を浴びた。


「ありがとう。泣かせてばっかりでごめん」


昔、ハンカチを差し出してくれたときのように、あさぎくんはゆっくりと手を伸ばして、そうして私を抱き寄せた。


「……っ」


驚きすぎて、いったん嗚咽が止まる。


「いいよ、いっぱい泣いて。悩ませてごめん」

「きゅ、急に優しくならないでくださいようっ」


涙があさぎくんのワイシャツを濡らしていく。
これ、実はさっきより目立ってないかなと思いつつ、冷やかしの口笛を背中にうけながら、私はあさぎくんに縋り付いた。

ああなんか。信じられないな。
ホントに? 本当に私のこと、好きになってくれたの?

でも振ってくれとかわけわからないこと言うし。
結局私の恋は成就したのかそうじゃないのかどっちなの。


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