王子様と野獣


その場で泣いていたのは五分くらいだったと思う。
端に寄っているとはいえここは往来なので、いつまでも大騒ぎしているわけにはいかない。
しゃくりあげている私の目尻を、あさぎくんは優しくぬぐってくれ、「動ける?」とのぞき込んできた。
頷いて歩く私の手を引いてくれる。
なんか、子ども扱い?って思うところもないでもないけど、なんだか距離が近くなった気がする。

そう思ったら、急に付き合う実感が沸いてきて、顔が熱くなってきた。

歩いているうちに、くう、と子犬が鳴いたような音が私のお腹からした。
思わず立ち止まるあさぎくん。

聞こえてた? 聞こえてたよね、そのいかにもな反応!

だって、さっきまで喫茶店にいたはいたけど、いつあさぎくんが出てくるかわからなかったから、コーヒーしか頼んでなかったんだもん。二杯も飲んだからそれなりにお腹には溜まったけれど、しょせんは液体。固形物のようなどっしり感はないよー。


「……もしかしてお腹すいてる?」

「そ、……そうかな。やだもう、恥ずかしい」


ぎこちなく返事をしたけれど、あさぎくんのほうはそこまで気にもしていないらしく、あっさりと続ける。


「俺もそういえば減ってるなぁ。……まず何か食べようか。モモちゃん、何食べたい?」

「私はなんでも……。あ、でも、気分的には和食ですかね。実はコーヒーの飲みすぎでお腹がタポタポしていて、がっつり固形物が食べたいです」

「豚丼とかどう?」

「あ、いいですね! そんな感じ!」


……って、思わず喜んじゃったけど、豚丼って全然女の子っぽくないな。どうして私ってこうなのかしら。
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