王子様と野獣
「父さん、仕事いいの?」
「お前らが最後の客だし。ラストオーダーももう終わった。たまに来た息子と話して何が悪いよ」
「悪いなんて言ってないよ。……無性に豚丼が食べたくなったから来たんだ」
「だからって彼女と豚丼とか、お前も色気ないなぁ。はは」
「食べさせたかったんだよ。……一番うまいのは、父さんの豚丼だから」
さらりと言ったあさぎくんに満足したように、お父さんは私に向かってウィンクする。
な、なんか気恥ずかしいな。
「百花ちゃん、お父さん元気? また今度飲もうって伝えておいて」
「あ、はい!」
「じゃあ、あんまり邪魔してもなんだから。またいつでも食べにこいよ、浅黄」
「うん。行こうか、モモちゃん」
「はい」
おごるよ、と言ってくれたあさぎくんに甘えることにして、私たちは店を出た。
家まで送ると言って、肩を並べて歩き出す。
そして不意に「ありがとう」と小さく言われた。
「……なにがですか?」
「父さんと似てるって言われるのは嬉しいから」
「あ、でも、仕草の話ですよ。見た目じゃなくて」
「知ってる。それでも嬉しいから」
電車を二駅のって下りる。あさぎくんも一緒に降りてくれたから、前みたいに送ってくれるつもりらしい。