王子様と野獣
「この間言ったことだけど」
外灯があさぎくんの金の髪を光らせる。あさぎくんは嫌いだと言うけれど、私は彼の髪を綺麗だと思う。存在を消そうとでもしているみたいに、時折ふっと気配を消すあさぎくん。彼がちゃんとここに存在しているってことを、その髪は主張してくれているようで。
私はじっと見つめながら続きを待った。
「俺はね、実の父親が嫌いなんだ」
ぽつり、ぽつりと、あさぎくんが口を開く。
アメリカ人の実のお父さんは、お母さんの妊娠を知らないまま帰国したこと。連絡も取れず、乳飲み子を抱えたお母さんがすごく苦労したこと。
その綺麗な外見から想像できないほど、彼の過去は壮絶だ。
あさぎくんの存在を知ったお父さんとは、小学二年生の時に再会したのだという。けれど、そのころにはお母さんは今のお父さんと付き合っていて、よりを戻すことはなかったんだそうだ。そして、あさぎくんが中学を卒業するころ、お父さんは再び彼に会いに来たのだという。帰国する前に、どうしても顔が見たいと言って。
「……愛しているって言葉が、呪いのように思えたんだ。俺を何も知らないくせに、……何もしなかったくせに、綺麗な言葉を並べ立てられるのが気持ち悪かった。もともと好きじゃないけど、彼譲りの金髪やこの顔がそれまで以上に嫌いになった。実の父親のような真似だけは絶対にしない。妊娠させて、そのまま逃げるなんてことはしないって誓った」
「あさぎくん」
「思い込みが強すぎたのかもしれない。いつしか俺は、上手に女性と付き合うことができなくなった。実際、人を傷つけたことがあるんだ。それ以来、もう誰とも付き合えないって、そう思ってた」