王子様と野獣

でもあさぎくんは、私に手を伸ばしてくれた。
それを私は、どう受け止めればいい?


「モモちゃんが瀬川にとられると思ったらじっとしていられなかった。俺は君が好きだよ。ただ、君をうまく大切にできるかがわからない。……過去の経験もあって、俺は君を傷つけるのが怖いんだ」


彼の困った瞳は妙に扇情的でドキッとしてしまう。
でも要は、あれだよね?
女の人を抱けないって言ってたことだよね?


「だ、大丈夫です。私は別に、そういうことがしたくてあさぎくんが好きって言ってるわけじゃないし。……ていうか、その、私も経験ないので。……ピンとこないっていうか」


恥ずかしながら暴露すると、あさぎくんの動きが止まった。


「……無いの?」

「ないです」


恥ずかしいな。何度も言わせないでよ。


「……そっか」


あ、ちょっと喜んだ? 口もと、笑っているみたい。
いつまでも処女なの、恥ずかしかったけど、喜ばれるならよかったのかな?


「今はこうして一緒にいられるだけで幸せなので。……ゆっくり考えませんか」

「うん」


やがてアパートが見えてきて、部屋の前まで送ってもらう。
もちろん上がっていくことなんてないんだろうなと思っていると案の定「じゃあ、また明日」と言われてしまった。

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