王子様と野獣
「謝られるのは面白くありませんね。……今回、主任の背中を押したのは私だって思ってもいいですか?」
「うん。感謝してる」
「だったらいいです。それで十分。どっちみち、それより先に私は振られてるんですから」
モモちゃんの人柄のせいなのか。田中さんは案外あっさりと俺たちの付き合いを受け入れてくれた。
あとは俺が、自分のトラウマを乗り越えるだけ。
書類越しに、彼女に視線を送る。
今度は青くなっているな。何かミスでもしたのかもしれない。
声をかけようか迷っているうちに、「お前、何やってんだよ。覚え悪いな」なんて言いながら、阿賀野が助けに向かったのが見えた。
「どうせゴリラですよ」
「ははっ、ついに自分で言いだしたな。自覚あるなら進化しようぜ、教えてやるからさ」
口は悪いけど、からかい半分だからかモモちゃんもそこまで傷ついた風でもなく言い返している。
比較的フレンドリーではあるけど、度を越しやすい阿賀野も、能力はあるけど扱いずらい人間のひとりで。その阿賀野とやりあえるモモちゃんはある意味ですごい。
すごいと思うけど、……面白くはない。
彼女がかかわると、妙に嫉妬深くなってしまう自分がいる。
目立たないように空気のような存在であるように。そう思って生きてきたはずなのに、彼女には自分を一番に見てほしいと願ってしまう。