王子様と野獣
パンと机に手をのせると、阿賀野とモモちゃんはびくりと体を震わせる。
「仕事中。……分かってるよな? 前も調子に乗りすぎだって言っただろ? 阿賀野」
顔の良さを利用できるタイミングがあるとすればこんな時だ。このつくりのいい顔から穏やかさを引くといっそ冷淡に見れるらしく、途端に周りの人間がおびえだす。
「わ、……分かったって。そう怒るなよ」
「騒いでごめんなさいっ。私も、まじめに頑張ります」
「うん。頼むよ」
「頑張ろうな!」
「はいっ」
いがみ合っているように見えたときもあった阿賀野とモモちゃんは、案外いいコンビになりつつある。
嫉妬心ばかりが胸の内に溜まって来るけれど、それを表に出すほど、俺は感情表現が豊かじゃない。
けど、……ああ、阿賀野みたいな女好きと組ませるのはなんか嫌だ。
嫌だと言っても、仕方がないことは分かっているけど。
「仲道さん、以前勤めてた会社の社名、教えてくれる?」
「へっ」
「イベント経験があるなら、いろいろ提携してもらえるかもしれないと思って」
「……はあ」
ほんの少し冴えない顔での返答。
俺は、せっかくモモちゃんが出してくれたこのアイディアを形にしたいと意気込みすぎていた。
だから、彼女がさりげなく出していたシグナルを完全に見落としてしまったのだ。