王子様と野獣
「両親とも帰りは遅いし。萌……妹の世話もあったし」
「すごい、あさぎくん。私なんて下に三人もいるのに、炒め物とかおおざっぱな料理しかできない」
実際、俺は料理は上手なほうだ。こういうのって、女の子のプライドを傷つけるかと思っていたけれど、モモちゃんは素直に「すごいですねぇ」って笑う。「おいしい」って喜ばれるのも、嬉しい。
彼女の笑顔を見ていると、その言葉を言ったとおりの内容で信じていいんだなって思えて、ホッとする。
「あさぎくんは、お父さんが好きなんですね」
「好きっていうか……母さんを助けてくれた人だからね。俺は苦労を掛けることしかできなかったから、父が母と結婚してくれて本当に嬉しかったんだ」
「……」
モモちゃんが俺をじっと見てる。しんみりさせてしまったかと慌ててほかの話題を振ろうとするけれど、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「苦労……ですか?」
「そうじゃない? ひとりで子供を育てるなんて、大変だったと思うよ」
「……そうかなぁ」
釈然としない様子のモモちゃんは、言葉を見つけられない様子で黙ってしまったから、俺も何も言わず、テレビの音に耳を傾けた。
ゆったりと一緒の時間を過ごし、ふと窓の外からの雨音に気づいた。