王子様と野獣
「今日雨の予報なんてあったっけ」
「ううん。あ、でももしかしてだいぶ前から降ってたかも。路面濡れてるね」
静かな雨だったのだろう、気づかなかった。窓を開けてみると、外灯で照らされた道路にはうっすら水たまりも出来ている。
「そろそろ帰るか。ごめん、傘かしてくれる?」
鞄を持ち、手を伸ばしたが、なかなか傘は渡されない。
「モモちゃん?」
「……と、泊っていけばいいじゃないですか」
顔を真っ赤にしてそんなことを言われて、一瞬息が止まる。
しかし彼女は慌てふためいた様子で弁明を始めた。
「し、知ってます。分かってます。あさぎくん、女の人抱けないって前に言ってたし! 私、気にしてません。こうして一緒にいられるだけで楽しいし。ただ、泊まってくれるだけでいいの。うち、千利がよく泊まりに来るから、布団もう一組あるから」
「でも」
タイミングがいいのか悪いのか、雨足が強くなってきて、ベランダに打ち付ける雨の音が合奏のようになってきた。
「ほら、雨もひどいし。大丈夫。本当に気にしないし期待もしません。あさぎくんはぐっすり眠ってくれて大丈夫。ね? こんな雨の中帰るんじゃずぶぬれになっちゃう……」
「でもモモちゃん」
「それとも私の部屋に泊まるのは嫌ですか?」
そんなことを言われて、それでも断固として帰れる男がいるならば見てみたい。
必死な彼女の説得に負け、俺は結局彼女の部屋に泊まることにした。
「千利が泊りに来た時に使う服だけど、ちゃんと洗濯してありますからね!」