王子様と野獣


そんな風に、彼女との日々は穏やかに過ぎていった。
初めての週末は、待ち合わせをして水族館デートをした。くるくる表情の変わる彼女に、幸せな気持ちになりながら、帰りは【宴】によって夕食をとる。

「おいしいですー!!」

モモちゃんの笑顔を見るたびに、心が癒されていくのがわかる。

「お、また来てくれたんだなー」

「おじさん! これ、どうやってつくるんですか?」

「それ教えたら商売にならないだろ、おもしろいな百花ちゃん」

いつの間にか父さんとも打ち解けていて、こっちが気後れするくらいだ。

「あさぎくんが料理上手過ぎて立場無いんです。私」

「気にしなきゃいいんじゃない? 茜だって俺より下手だよ?」

「でもおじさんは料理人だから。あさぎくんは普通にサラリーマンなのに!」

「じゃあ今度簡単に作れておいしいレシピを教えてやるよ。浅黄抜きで遊びにおいで」

「父さん、人の彼女ナンパしないで」

軽く睨むと、父さんはにやりと笑って厨房へ戻っていった。
ふう、とため息をついて正面を見ると、今度はモモちゃんがくふふとほほ笑んでいる。

「どうしたの?」

「えへへ。彼女って言われて嬉しいので」

モモちゃんは素直で、誰からも好かれる。
なのに、どうしてこんな不完全な俺を好きになってくれたのだろう。
一緒にいると、そんな考えが頭をもたげる。
君が僕を選んでくれたから、君に似合うような俺になりたいけれど、俺はなかなか自信が持てない。
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