王子様と野獣
「ハンドメイドイベントの企画、いっぱい案だししたんですよ。阿賀野さんに没もいっぱいくらっているけど」
「へぇ」
「現地の交渉にもついて来いって言われてるんだけど行ってもいいんですかねぇ、私」
「仕事上必要なことだからいいよ。ていうか、資料作りの仕事をもっと分担しようか。ぶっちゃけモモちゃんが作るより瀬川や阿賀野が自分で作ったほうが早いだろ」
「うっ。すみません……」
胸を打たれたように呻き声をあげた彼女の頬をツンとたたく。
「……モモちゃんは、企画のほうが向いていると思う」
「え?」
「適材適所にしようって言ってるだけ。君が役立たずなんて思ってないよ」
「本当?」
途端にぱっと晴れ渡る表情。くるくる変わる表情は魅力的だし、かわいくて抱きしめたくなる。
いつものようにアパートの前まで送り、「はいってお茶でも」と誘いに素直に応じて中に入る。
一緒にお茶を飲みながら話していると、ついつい視線が彼女のうなじや唇にばかり行ってしまう。
「モモちゃん……」
振れるだけのキスを、いまだ緊張した様子で受け入れる彼女は、今は俺のことを好きでいてくれるだろう。
だけど、やがてそれにも慣れてきたら?
いつまでも手を出さない俺に愛想をつかしたら?
ざわざわと不安がむしばんでいく。
自分のものにしてしまいたい欲求と、実の父の影におびえる自分の心がせめぎ合って暴れている。