王子様と野獣
「弟君だよね。俺のこと、覚えてないかな。馬場浅黄です」
千利のほうはちらりと私を見たかと思うと、若干威圧するようにあさぎくんを見つめた。
「知ってる。モモの初恋の王子様だろ? 前に外で会ったよね」
「千利、礼儀! あんたより年上なんだからね、ちゃんと敬語使ってよ」
「いいよ、モモちゃん」
怒り狂いそうな私をあさぎくんがなだめる。
いや、でも怒りは収まらない。
だってさ、いきなり泊りに来て、説教されるってどういうことなの。
「千利くん。俺、今、モモちゃんと付き合ってるんだ。急にお姉さんの部屋に男がいたらびっくりしただろうけど」
あさぎくんは落ち着いた様子で千利に歩み寄ろうとしてくれている。なのに千利ときたら酔っ払っているとはいえさっきから態度が悪い。
「……アンタもてるんでしょ? モモのどこがいいの?」
「千利ぃ!」
振り上げたこぶしが震える。なんて恐ろしいこと聞くのよ。
「モモもだよ。この人のどこがいいの? 顔? 」
「千利、いい加減にして。酔っ払ってるなら寝なさい。本人を目の前にして失礼なこと言わないで」
私はひと眠りしちゃったらしくて、現在夜の0時過ぎ。そろそろあさぎくんの終電も怪しくなってきて、このままだと三人でこの部屋に寝るという面倒くさいことになりそうですが。