王子様と野獣

「私、あさぎくんが好き。大好き」

髪の生え際にキスをする。そうしたらあさぎくんは甘えるように抱きついてきた。

「モモちゃん。……モモ」

「ん」

「怖くない? 俺のこと」

「どうして怖がるの? こんなに優しい人なのに」

「だって俺は母を捨てた男の……」

「違うってば。あさぎくんは絶対そんなことしない。もし子供ができたとしたら逃げる? ちゃんと自分と向き合ってみて? 私は、あなたがそんなことするなんて考えられない。あさぎくんなら大切にするよ。萌ちゃんにそうしてきたように」

「萌……」

どこか泣きそうな瞳で、あさぎくんが名前を呼ぶ。

「素直でかわいい子だったよ。愛されて育ったんだなって、他人の私でもわかるくらい。それっておじさんやおばさんのおかげだけじゃないでしょ? 二人は、遅くまで仕事してるんだもん。あさぎくんがちゃんと大切にしてたから、萌ちゃんはいい子に育ったんじゃん」

「萌は、……かわいかったんだ。モモちゃんみたいに、素直に泣いて素直に怒って。感情豊かなところが俺はかわいくて。大切にしたかった」

「ほら。ちゃんと大切にできる。あさぎくんは誰のことも切り捨てたりしない。そんな人だって証明、家族を見ていればできるじゃない」

彼の目尻に浮かんだ涙は、やがて頬を伝った。
あさぎくんが泣いているなんてなんだか不思議な気分。
だけど、それすらも愛おしくて私は彼の頬を自分の小さな手でぬぐう。
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