王子様と野獣

「うん、でも、会いたいんだって。あさぎくんは」

一瞬、沈黙が落ちる。そして、お母さんは電話口の向こうで大きく息を吐き出した。

『そっか。大事にされてるのね、モモ』

「うん。そうだと思う。だからみんなにちゃんと知っていてほしくて」

『分かったわ。お父さんのことは私に任せなさい』

そうします。お父さんをやり込めることにかけては、お母さんに敵う人などいないもの。

来週末に行く約束を取り付けたあと、お母さんは思い出したように言った。

『千利に変わる?』

「うーん、いいや。携帯にかけなおす」

『分かった。じゃあ来週楽しみにしてるわ』

それで母との電話を切り、千利の携帯にかけるも出やしない。
仕方なくLINEで【昨日のことは私は悪くないからね】と入れたら、しばらくして【悪かった】と返信が来る。

微笑ましく見ていたら、もう一つメッセージが届いた。

【モモを取られる気がして嫌だったんだ】

……ああもう、全くシスコンだな、千利は。
呆れると同時に嬉しくもなる。だって私と千利っていつも一緒だったから。
きっと千利に彼女ができたら、私も同じように思うだろう。

【私は変わらないよ。ちゃんと千利のねーちゃんだから。また泊りに来ていいよ】

返事は、【できません!】と書かれた犬のスタンプ。
何を返そうか考えているうちに【……でもたまには行く】と追記された。

千利の顔が浮かぶようで、楽しくなって、しばらく変な顔のスタンプを送り続けた。


< 172 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop