王子様と野獣
「うん、でも、会いたいんだって。あさぎくんは」
一瞬、沈黙が落ちる。そして、お母さんは電話口の向こうで大きく息を吐き出した。
『そっか。大事にされてるのね、モモ』
「うん。そうだと思う。だからみんなにちゃんと知っていてほしくて」
『分かったわ。お父さんのことは私に任せなさい』
そうします。お父さんをやり込めることにかけては、お母さんに敵う人などいないもの。
来週末に行く約束を取り付けたあと、お母さんは思い出したように言った。
『千利に変わる?』
「うーん、いいや。携帯にかけなおす」
『分かった。じゃあ来週楽しみにしてるわ』
それで母との電話を切り、千利の携帯にかけるも出やしない。
仕方なくLINEで【昨日のことは私は悪くないからね】と入れたら、しばらくして【悪かった】と返信が来る。
微笑ましく見ていたら、もう一つメッセージが届いた。
【モモを取られる気がして嫌だったんだ】
……ああもう、全くシスコンだな、千利は。
呆れると同時に嬉しくもなる。だって私と千利っていつも一緒だったから。
きっと千利に彼女ができたら、私も同じように思うだろう。
【私は変わらないよ。ちゃんと千利のねーちゃんだから。また泊りに来ていいよ】
返事は、【できません!】と書かれた犬のスタンプ。
何を返そうか考えているうちに【……でもたまには行く】と追記された。
千利の顔が浮かぶようで、楽しくなって、しばらく変な顔のスタンプを送り続けた。