王子様と野獣
「ありがとうございました」
一通り内見を終えて、最後に店舗前で入口の外装について話していたとき、宮村さんがふいに顔を寄せてきた。
「イベントは商店街の店が中心となって行うということですが……。どうですか? うちでも色々な企画を出せますよ。ぜひイベント運営に参加させていただけたら」
「そうですね。主目的はこの商店街の活性化なので、材料をこちらから調達していただけるのであれば、お願いしたいところですが……」
「しかし、いつも頼んでいる業者がありますので……」
込み入った話で、機嫌を損ねないか神経を使う。
今回はこちらが謝礼を出す取引だとは言え、いつ立場が逆転するかわからないのが社会というものだ。
俺の出方次第で、会社の印象自体が変わるのだから慎重にもなる。
のらりくらりとかわしていると、通りのほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「花はいいと思うんですよ。季節ごとにリース作りやポプリ作りとかできるじゃないですか」
「でも高くつくだろ。そんなに人来るかなぁ?」
「買って飾る層が一定数いるんですから、高くても好きな人は来ますよ」
モモと阿賀野の声だ。
そういえば、商店街の各店舗と相談するようなことを言っていたな。
「あ、馬場」
阿賀野が俺に気づき、モモもこちらを向いた。彼女は俺と宮村さんを見たとたんに、顔をこわばらせた。