王子様と野獣
「ごめん、ちょっと」
俺は阿賀野にひと言断り、店舗の外で話す彼女たちの方に向かった。
うつむいているモモも、背中を向けている宮村さんも、まだ俺の存在には気づかないようで、話を続けている。
「あんな上場企業に入り込むとか、うまいことしてるんだな」
威圧的でさげすむような声だ。先ほどまでの営業用の声とは全然違う。
一方、モモのほうは感情を抑えたようないつもよりも低い声だ。
「派遣で……たまたまです」
「うちの紹介してくれたんだってな。どうせならそのまま、イベントもうちに委託するように頼んでくれない?」
「それは、主任が決めることです」
「主任さんは商店街の店から材料発注しないとダメって言うんだよ。でもさ、わかるでしょ。いつも頼んでるから安く仕入れられてることくらい。こっちも付き合いがあるんだよね。大事な取引先とはさ」
「それはわかりますけど!」
「だったら頼むよ。でないとばらしちゃうよ。君が上司を投げ飛ばすような女の子だってこと」
脅しに近い口調が、俺の神経に触る。
ああやっぱり、そんな経緯があって辞めたのか。
何をされたのか知らないけれど、よっぽど嫌だったんだろう。
今も、宮村さんを睨みながら、モモは手が出そうなのを必死でもう片方の手が押さえている。
モモの拳が震えているのを見て、宮村さんは一歩構えて引いた。
「なんだ? またやる気か?」
カッとなった彼女が顔を上げた瞬間に、俺は彼女の腕を押さえた。