王子様と野獣
「お話し中、すみません」
モモは驚いたように俺を見上げる。彼女の腕にはすごく力が入っていた。俺が、かなりの力を込めて押さえないと動いてしまうくらいに。
宮村さんは、突然割って入ってきた俺に対して困惑を隠しきれない様子だ。
「仕事の話は自分に。彼女はまだ入社したてですから」
にっこりと笑いながら、彼女を自分の後ろに引っ張り込む。
宮村さんはぎこちない表情のまま、「あ、いや。違うんですよ。昔馴染みなのでちょっと話をしていただけです」
と答えると、ちらりとモモを見て、嫌みっぽく笑った。
「馬場さん、この子、小さいけど油断ならないところがあるので、気を付けたほうがいいですよ」
嫌味な笑い。背中にいるモモが、びくりと体を揺らすのが分かった。
会社としてはここは受け流すところだ。分かってはいるけど、俺の口から出たのは挑発的な言葉だった。
「そうですね。彼女は嫌なことは嫌だと言える人です。いい意味で起爆剤になってくれてますよ。……それにしても、彼女にこんなに警戒されるなんて、あなた、以前彼女に何をしたんですか?」
反論が来るとは思っていなかったのだろう。
宮村さんはさっと表情を変えた。まずいなとは思ったけれど、俺ももう、引く気はなかった。
「なっ、されたのは私のほうだ。こいつは私を投げ飛ばしたんですよ?」
「何もないのにそんなことするわけないでしょう? この通り、彼女は小さい女性なんですから」