王子様と野獣
「本部長の田中城治(たなか じょうじ)さん。社長の息子さんなんだよ。五年前に途中入社してから大改革をして、うちの部署を立ち上げたのも本部長」
「聞こえてるぞー」
「あら、すみませんー」
結構フランクに話せるんだな。本部長なんて雲の上の人って感じだけど。
一階上なだけだから、エレベータは直ぐに止まる。
「土地開発部門には期待してるんだよ。特に瀬川と阿賀野を馬場がどう調理するのか楽しみでならないな」
「主任、かわいそうですよ。同期なのに一人だけ上司にさせられるなんて居心地悪いでしょう」
「それを納得させられるかどうかが見せどころなんだろ。まあがんばれ」
ポンと遠山さんの頭をたたいて、本部長が去っていく。
なんだかただならぬ関係のようにも見えて、私は思わず遠山さんを凝視してしまった。
「あはは、違うからね。仲道さん、考えがすぐ顔に出るんだねぇ。面白い」
「す、すみません」
だって。
歳があんなに離れていて、気やすく話せるなんておかしくない? 愛人なの?とか思っちゃうじゃん。
「本部長は誰にでもこんな感じだよ。私、入社当初、部署の人とうまくいかなくて、新人いびりみたいなのに遭ってたんだけど、本部長が当時上司で、いろいろ相談乗ってもらったんだ。いろいろ改革してくれて、会社も雰囲気変わったよ。遠方に嫁ぐんじゃなければずっと働いていたかった」