王子様と野獣
「そうなんですね」
「それに、本部長の奥さん、すっごい格好よくて素敵なの。一度会ったことあるけど、もう惚れるよー!」
「へ。へぇ」
「まあいいや。社内案内に戻るね。五階には社長や重役の部屋があるの。この会社は創始者の一族が切り盛りしているようなもんだから。このフロアにいる人はほぼ“田中”」
「あ、さっきの本部長も田中さんでしたね。……あれ、そうしたら田中さんは……」
「そうよ。美麗ちゃんも一族のひとり。現社長の姪っ子で、専務の娘さん。本部長からすると従妹になるのかな。だからあの子には、皆逆らえないんだよねー。本当なら秘書課にいるんだろうけど、馬場さんが主任に付いた途端、うちの部署に配属になってさー。あれは裏で誰かが手を引いてるよね」
「え、それじゃあ」
「馬場主任は、あの年次の出世頭だからねー。専務、美麗ちゃんの婿に狙ってるんじゃないかな」
「そ、そんな本人の意思もなしに?」
「本人の意思がないかどうかなんてわからないじゃん。美麗ちゃんは美人だし、ちょっと性格きついけど、別に悪くはないと思うよ」
「そうなの?」
血の気が一気に引いていく。
あさぎくんの運命は、私じゃない人と繋がっているの?
じゃあなんで再会なんてしちゃったのよ。せっかく思い出になったというのに、再会したことで私の中の時間は動き出しちゃったっていうのに。
「で、こっちに応接室があって……、ちょっと聞いてる?」
そこからの説明は半分以上聞いていなかった。
だってショックだ。ていうか、こんなにショックを受けたことに驚きだ。