王子様と野獣
「私はそろそろ飽きてきたわぁ」と母がいい、用意していたらしい果物を皿にのせて突っ込んでいく。
「イチくん。浅黄くんのひとりじめはその辺にして。浅黄くん、今日はぜひ夕飯も食べていってね。イチくんがおいしいの作ってくれるから」
「俺か?」
「賭けたでしょう? モモが連れてくるのはいい男だって。ほら、私の勝ち……ね?」
「くっ……分かったよ!」
きょとんとしたあさぎくんの隣に座った私は説明する。
「うちのお父さんとお母さんはなにかって言うと賭けをしてるの。負けたほうが夕飯つくるんだよ」
「そう。八割くらいは私の勝ちね」
お母さんは勝ち誇った顔でお父さんがいた席に陣取る。
「親父が勝つことなんてほぼないじゃん」
千利も混じってきて、饅頭をつまみ食いする。と、キッチンに向かった父が声を張り上げた。
「おい、千利、手伝えよ」
「俺? モモじゃないの?この場合」
「えー、でも賭けの結果でしょ?」
だったらお父さんがひとりでつくればいい、と思いつつ、まあ一応、女子力もみせなきゃいけないかな、と思い立ったところで、あろうことかあさぎくんのほうが先に立ち上がった。
「あ、俺が手伝います」
「あらいいのよー。イチくんはプロなんだから。浅黄くんは座ってて」
お母さんが止めたけど、「俺、料理は好きなんです」とほほ笑んだ。
ふたりが料理を始めて、さすがに私も手伝いにいったけれど、お父さんは私とあさぎくんの手つきを見比べて、「モモはいいわ」とあっさり私をキッチンから追い出した。
ひどい。屈辱だ。
アパートに戻ったら料理の練習をしてうまくなってやる。
そのうちに帰ってきた万里が、「うわ、外人!」と言い、「ちょっと万里、失礼」と言いながら、私は万里の相手をすることとなった。
「……お前の料理の師匠、幸紀だろ。包丁持つ手の癖がそっくり」
何気なくお父さんが言って、あさぎくんは心底嬉しそうに笑った。
お父さんは照れたようにそっぽを向いて、「モモがちゃんと飯を食うよう見張ってやってくれよ」なんて言う。
それはお父さんなりの了承の言葉だったのかもしれない。