王子様と野獣


「……そろそろデスクに戻ろうか。一気に言われても頭に入らないよね」


上の空の私をおもんぱかってか、遠山さんは優しく笑うと私をエレベータへと促した。

再び四階に戻り、長い廊下を歩いていると、向かいからあさぎくんと阿賀野さんが話しながらやって来た。
あさぎくんは私たちに気づくと、王子様スマイルで手を振る。


「遠山さん。俺たち、昼まで外出なんだ。ごめんね、仲道さん、来たばかりなのにあわただしくて、遠山さんにしっかり教えてもらって?」

「はい!」


綺麗な顔をしているから見とれちゃう。ぼうっと見つめていると、いきなり別の手に肩を抱かれて引っ張られた。


「百花ちゃん、今度俺、おすすめのランチの店教えてやるなぁ。もっと話したいし、今日の仕事終わりとか飯食いに行かない?」


阿賀野さんだ。髪に彼の頬が密着する。
いや、近いって。今日会ったばかりでしょ、あり得ないでしょこの距離感。


「こら、阿賀野馴れ馴れしいって」

「いーじゃん。百花ちゃん可愛いしちっこいし、俺、結構好み」


さらに調子に乗ったように、髪の匂いを嗅いでくるから、本能的に嫌だと思ってしまった。

そして、そう思ってしまったが最後、反射的に体は動いてしまう。
すっと身を低くして、バランスを崩した阿賀野さんがよろけた瞬間に首元と腕を掴み、足をさばいてバランスを崩させる。


「え……うわっ」


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