王子様と野獣
うっ……難しい。
でも、仕事内容はなんかすごくいいな。たしかに、大きな駅の隣の駅とかって閑散としたりするよね。
せっかくの駅前のいい土地なのにって思うこと、結構あるもん。
死んだ土地を生かして活性化させるとか、すごく楽しそう。
「まあ、この部署は立ち上げられてまだ半年だから。まだまだ未開発なのよ。とりあえず今は二駅隣の笹谷木駅前周辺の開発計画を練っているところ。メインで動くのは主任と阿賀野さんと瀬川さんだから、私たちは言われたことを言われた通りにサポートすればいいだけ」
笹谷木駅は、通勤途中にある駅だ。快速が止まらないせいもあって、たしかにあまり目立たない。私もあの駅で降りたことはないなぁ。
ちなみに田中不動産の最寄り駅は、いろんな路線が交じり合うので、駅自体が広く、店もたくさん入っている。交通は人の流れをつくるというけど本当なんだなぁ。
ぼんやりと考えていたら、突然ドンっと机をたたく音がして、我に返った。
机の上に置かれたピンクのマニキュアが綺麗に塗られた手から腕をたどるようにして視線を上げると、そこには怪訝そうな顔で私を見下ろす美麗さんがいた。
「……仲道さん。今変な噂聞いたんだけど。あなたが阿賀野さんを投げ飛ばしたってホント?」
「え、っと。あの」
「本当ですよう。見てなかったんだねー、美麗ちゃん。まあ阿賀野さん、ちょっと馴れ馴れしすぎですから。ちょうどいいんじゃないですかぁ」
遠山さんがさらりと返すと、島の向こう側から、「ぶっ」と瀬川さんが噴き出した音がした。