王子様と野獣

「瀬川さん、笑わないでくださいよ」

「本当よう。びっくりしちゃった。流れるような動きで次の瞬間には阿賀野さんを床に転がしているんだもん。おもしろかったわー」


いい加減この話題からは離れたいのに、遠山さんが、またも詳しく説明してしまう。
あ、でも、おもしろいって思ってくれていたんですね。


「マジで。俺も見たかったな。阿賀野の間抜けな面拝みたかった」


瀬川さんは眼鏡を直しつつもまだ肩をゆすって笑っている。

こうして、いないところで笑いものにされてるなんて知ったら、ショックだろうな。
やっぱり失礼だったわ、ごめんなさい、阿賀野さん。


「……そんなこと言わないでください。私も悪かったんです。帰ってきたら阿賀野さんに謝らなきゃ」

「いいじゃん。どうせあいつがしつこく触ってきたんだろ。セクハラって言ってやればいいよ」

「そういうわけにもいかないですー」


私が言い続けていると、遠山さんが間に入ってくれた。


「まあ、さらりと謝っておけばいいよ。阿賀野さんにも悪いところはあるんだしそれで万事解決でしょ」

「あいつがなんか言ってきたら俺が助けてやるよ」


遠山さんも瀬川さんもいい人だなぁ。


「ありがとうございます!」


元気よく返事をして、私は気を取り直してパソコンへと向かった。
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