王子様と野獣



「じゃあ、このリサーチ結果を入力して一覧表作ってくれる?」


そう言われて取り組んで早二時間。遠山さんは私の手元をちらりと見ながら、心もとない顔をしている。


「……意外と遅いね、入力」

「すみませんー!」


見られているのが気になって、ますます手元がおぼつかなくなる。

ああ……情けないなぁ。あんなポカをやっちゃった後だから、仕事で挽回して見せたいのに、これじゃあ全然いいとこなしだわ。

戻ってきた美麗さんからの査定するようなまなざしもまた怖い。


「本当にメインでパソコン作業やっていたのかしら。この派遣会社大丈夫なの?」


独り言、大きな声過ぎて聞こえてますから。
ううう、つらい。胃が痛いよ。


「美麗さん、初日っからそんなあたりの強いこと言わなくても」


そんな言葉が聞こえてきて、驚いて顔を上げる。今の声は男の人の声、つまり今ここには瀬川さんしかいないわけだけど。え? 彼が言ったの?
特に表情も変えずにキーボードをたたいているけど。


「……なに?」


まじまじと見つめてしまった私に気づいて、瀬川さんが顔を上げる。思わず顔がぶわっと熱くなる。


「いえ。……ありがとうございます。頑張ります」

「タイピングは慣れだから。今その速度でもひと月後にはもっと早くなるよ。遠山さんの代わりなら結構書類つくらなきゃならないし。……だから今からビビんなくてもいいんじゃない?」
< 27 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop