王子様と野獣
「じゃあ、このリサーチ結果を入力して一覧表作ってくれる?」
そう言われて取り組んで早二時間。遠山さんは私の手元をちらりと見ながら、心もとない顔をしている。
「……意外と遅いね、入力」
「すみませんー!」
見られているのが気になって、ますます手元がおぼつかなくなる。
ああ……情けないなぁ。あんなポカをやっちゃった後だから、仕事で挽回して見せたいのに、これじゃあ全然いいとこなしだわ。
戻ってきた美麗さんからの査定するようなまなざしもまた怖い。
「本当にメインでパソコン作業やっていたのかしら。この派遣会社大丈夫なの?」
独り言、大きな声過ぎて聞こえてますから。
ううう、つらい。胃が痛いよ。
「美麗さん、初日っからそんなあたりの強いこと言わなくても」
そんな言葉が聞こえてきて、驚いて顔を上げる。今の声は男の人の声、つまり今ここには瀬川さんしかいないわけだけど。え? 彼が言ったの?
特に表情も変えずにキーボードをたたいているけど。
「……なに?」
まじまじと見つめてしまった私に気づいて、瀬川さんが顔を上げる。思わず顔がぶわっと熱くなる。
「いえ。……ありがとうございます。頑張ります」
「タイピングは慣れだから。今その速度でもひと月後にはもっと早くなるよ。遠山さんの代わりなら結構書類つくらなきゃならないし。……だから今からビビんなくてもいいんじゃない?」