王子様と野獣


言い方はそっけないけど、私の気を軽くさせるために言ってくれているのがわかる。
ああ、この人、いい人だなぁ。

感動していると、苛ただしげな舌打ちが遠くから聞こえてきた。
恐る恐るその方向を見れば、目つき悪くこちらを見ている美麗さん。
うわーん、怖いよー。


「……瀬川君、優しい~。気に入ったのかもね、仲道さんのこと」


遠山さんがぽそりと耳打ちしてきて、私は信じられずに「まさか」と答えた。

だって、気に入られるようなことなんて、何にもしてないし。
女の人ってなんでもすぐ恋愛に結びつけようとするよね。
でも、さすがに自分が一目ぼれされるような容姿じゃないことくらい分かってるもん。瀬川さんは普通に親切なだけなんだと思う。


「ただいま」


声がしたと思ったら、「お疲れ様です。主任」と美麗さんがすっと立ち上がり美しき微笑みを見せる。
さっき舌打ちした人と同じ人とは思えませんな。


「俺もいるんだけどー。あー、つっかれた。……あー」


阿賀野さんは私と目が合うと気まずそうに反らす。

まあ、そうだよね。投げ飛ばされた痛みだってまだ微妙に残っているかもしれないもんね。

なんとなく気まずい空気があたりを包む。
急に呼吸がしづらくなった気がして、私は思い切って立ち上がった。

少しでも悪かったと思うなら、悩むより先に謝っちゃおう。
いつまでも気まずいのとかごめんだよ。
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