王子様と野獣
「あのっ、さっきはっ……すみませんでした」
「は? え、あ、えーと」
阿賀野さんは戸惑ったようにあたりを見回す。そしてしばらくの沈黙ののち、深いため息をついた。
「はー。それ蒸し返すかねぇ」
「すみません。でも」
「いいよ。俺も悪かったし。つか、顔上げてよ。俺が新人いじめしてるみたいで気分悪い」
「……ごめんなさい」
阿賀野さんの声は、困ったようにも聞こえるけど、冷たくも聞こえた。
謝っても不快にさせることしかできなかったんだと思ったら、情けないし悲しかった。
再び落ち込んでいると、ぐいと腕を引っ張られた。
「え?」
「こっちにおいで、仲道さん」
私の腕を引くのは、あさぎくんだ。
「え……あの」
「ちょっと面談しよう。……阿賀野。彼女謝ったんだし、そっちだって悪かったんだから、これ以上もめごとは無し。いいよな?」
「ああ、もちろん。ってか、別に俺もう怒ってないからー」
「わかった。仲道さんもこの話は気にしなくていいから。……仕事についてちょっと相談しよう」
相談ならここでも……と思うのに、予想外に強引に廊下へと連れ出された私の背中に届くのは、「相談ねぇ……」とつぶやく遠山さんの声。
あれっ、仕事の相談なら遠山さんも来るんじゃないのー?