王子様と野獣
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あさぎくんに連れてこられたのは小さな会議室だ。正面にホワイトボードがあり、大きな机に六人分の椅子が配置されている。
「さて。ごめん、朝からゆっくり話せなくて。座って」
「いえ」
朝のことを怒られるのかと心配で、顔色を伺いながら座ると、予想外にあさぎくんは穏やかな微笑みを見せた。
「……何から話そうかな。えっと、久しぶりだね。俺のこと覚えてた?」
「お、覚えてましたっ。まさかあさぎくん……じゃなくて馬場さんに会えるなんて思わなくて」
「俺も派遣名簿を見たとき、まさかって思ったよ。仲道って名字、意外とないから。まさか本当にモモちゃんだなんて。えっと、名前……せんりくんだっけ。弟君、元気?」
千利のことまで覚えていてくれたんだ。
急に嬉しくなって、前のめりになって話してしまう。私ってば、現金。さっきまで落ち込んでいたっていうのに。
「元気です。千利は今大学生で。……実はあれから弟も妹も増えたんです。四人兄弟になりました」
「へぇ。うちも実は妹ができたんだ。ちょっとモモちゃんに似てるよ。まだ高校生」
「あ、うちの三番目も高校生ですよ。一年生」
「へぇ、一緒だ。すごいね、偶然」
会話が自然につながっていく。十六年なんて月日はなかったんじゃないかって思えちゃうくらい。
それからも家族の話が続いた。
あさぎくんのお父さんは【U TA GE】を辞めて今は別の店を開いているらしい。【宴(えん)】っていう名前の定食屋なんだって。
店長さんかぁ。うちのお父さんなんかいまだに【U TA GE】の雇われ料理人なのになぁ。