王子様と野獣
「え? ……あの、どうしたんですか?」
「いや、ごめん。阿賀野を投げ飛ばしたのはびっくりしたなぁと思って。でも、嫌だったんだろうなって思ったら納得だった。昔も、嫌だと思ったらすぐ泣いていたよね」
「あ、あれはですね」
「阿賀野にもあんまり馴れ馴れしくしないように釘を刺しておいたから。もう心配しないでいいよ。ただ、暴力は控えてもらえると助かる」
「はい! 本当にすみませんでした!」
ぺこりと頭を下げて、ようやく肩の荷が落ちた気がする。
軽蔑されたわけじゃなかったこともそうだけど、あさぎくんが、私のことをわかっていてくれたのが嬉しかった。
「よろしくね。モモちゃ……えっと、ごめん。職場だし、これからは仲道さんって呼ぶね」
「はい。私も馬場主任って呼びますね」
そうだよね。
職場の上司と部下なんだから、名前で呼び合っていちゃおかしい。
ちょっと残念な気もしたけれど、私は納得して笑顔を向けた。
会話が終わりを迎えるころ、会議室をノックする音が聞こえ、楽しかった気持ちもひゅっと戻される。
あさぎくんが「どうぞ?」というと、「失礼します」と、女性の声がした。
入ってきたのは、美麗さんだ。
「やあ田中さん。なにかあった?」
「昼休憩の時間になりました。私と遠山さんで、仲道さんと親睦会がてらお昼に出たいって話していたんですけど、お話終わりました?」