王子様と野獣
清々しいほど態度が違うなぁ。
世間話を振ってきたのは、あさぎくんのほうなんだけどね。
まあでも、美麗さんに指摘された仕事の遅さは本当だし、自分のスキル不足が原因だから、そこに怒られること自体は仕方ないと思える。
「すみません。仕事、頑張ります。至らないことのほうが多いと思うんですが、ちゃんと覚えます。だから、いろいろ教えてください、美麗さん」
素直にぺこりと頭を下げたら、美麗さんはぐっと詰まったように顔を赤くして、「あたり前よ。ちゃんと使える人材になってくれないと困るの。部署の人間ひとりひとりがしっかりしていないと、主任に負担がかかるんだからね」と言ってそっぽを向く。
……微妙にかわいい? 二面性のあるツンデレなのかなこの人。
綺麗だし、仕事も出来そうだし、何より専務の娘さん。
何でも持っているようなこの人が、あさぎくんのことを好きなのだとしたら、私なんかが太刀打ちできるわけがない。
なのに……困ったなぁ。私の頭の中、朝からあさぎくんのことでいっぱい。どうやら私の初恋は、まだ終わっていなかったらしい。
だとしたら美麗さんはライバルだ。
こんなきれいな人と、私、戦えるの?
「……なによ、じっと見て。遠山さんも待ってるわよ。早く行きましょう?」
「あ、親睦会は本当なんですね?」
「は?」
「てっきり、あそこから連れ出される口実なのかと……」
「そんなわけないでしょう。あなたこの周辺のお店も知らないでしょ? 探し回ってたら時間の無駄じゃないの。さあ、行くわよ」
ショートボブがさらりと揺れる。背も高くて歩幅も広いから、おいていかれそうになるけれど、彼女はちらりと必死で追い駆ける私を見て、ほんの少し歩調を緩める。
分かりやすく敵意はむき出しにするけど、うん、やっぱり、そこまで悪い人でもなさそうなんだよなぁ。