王子様と野獣
子供が多く、忙しい両親は、長女である私に合気道を習わせた。『自分の身を自分で守れるようになってほしい』と言って。
お陰で私は、そこそこ強いと自負している。ゆえに、自分の身どころか、他人の身まで守ろうとしてしまう。
仕事終わりに自宅に連れ込まれそうになっていた里沙先輩を助けるために、部長を投げ飛ばした。
当然、待っているのは嫌がらせの日々。居ずらくなってやめるのは直ぐだった。
『ごめんね、ごめん』
里沙先輩も泣きながら、結局ふたり揃って退職届を出した。
退職金なんて雀の涙ほどしかなくて、でも最後に里沙先輩がふっきれたように笑ったから、まあいいかって思えちゃって。
もともと給料が高かったわけでもなく、二年分の貯金もあっとという間になくなっちゃった。
社会保険がでるまで待っていられないほど切羽づまった私は、派遣登録し、自らのスキルを誇張して職をゲットしたという状況。
まあ、いいよ。
経過がどうであれ、とりあえずは職が決まったんだもん。
頑張ればきっといいことがある。今度の会社はそれなりに大手だもん。お給料もいいし。スキル的に心配だけど、潜り込めたことは本当にラッキーとしか言いようがない。
「がんばる。うん。がんばるよ、私」
自分自身に言い聞かせるように、私は何度もそのセリフを繰り返した。