王子様と野獣
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それから数日がたって、今日は金曜日。
あさぎくんがパソコンを貸してくれたおかげで、とりあえず表計算ソフトに関しては気負わず扱えるようになった。
身長百五十センチの私はほぼ満員の通勤電車だと埋もれてしまい、最初はすごく辛かったけど、それもちょっと慣れてきたなーと思っていたら、LINEが鳴った。
【泊りに行ってもいい?】
弟の千利からだ。千利は実家から大学に通っていて、飲み会のときとか夜遅くなりそうなときは、私の部屋に泊まりにくる。今じゃ背も伸びて、私のことを見下ろしてくる。
昔は泣きながら私の後をついてきたというのに、生意気なことこの上ない。
【いいけど。よくも母さんに仕事辞めたこと話したね?】
ちょっと文句をつけてやる。
【隠したってどうせバレるし。モモが言いにくそうだったから、言ってあげたのに】
たしかに、あとでバレたときの気まずさを考えたら、電話で済んだのはむしろ幸運だったのかもしれない。
悔しいけど千利は私より頭がいいから、いつも、いつの間にか言いくるめられてしまう。
【まあいいや。合鍵で勝手にはいっててよ】
実家に置いてある私の部屋の合鍵をもって、千利は好きな時にやって来る。
思えば自由な別宅だよね。
私に彼氏でもいるなら遠慮してもらうんだけど、いつまでたっても来られても困らない自分に悲しくもなる。