王子様と野獣

あさぎくんが庇ってくれるのは嬉しいけど、私が原因でケンカされるのも嫌だなぁ。
困って縮こまり、手持無沙汰でビールを飲む。すると瀬川さんと目があった。


「こっちにおいでよ、仲道さん。……ね、百花ちゃんって呼んでいいかな」


瀬川さんが手招きしてそんなことを言うから、私はまたしても戸惑ってしまう。
たしかに、既に遠山さんがそう呼んでいるんだから、駄目ですっていうのも変な気がするんだけど、男の人に言われるのは女の人に言われるのとはちょっと違うというか。


「えっと。あ、……はい」


でもなんて答えていいかわからなくて私は結局頷いた。


「なんだよ、瀬川。今は俺がこいつと話してるんだよ。大体さ、仕事に来て初日に同僚投げ飛ばすとかないからな」

「その節は……すいません」

「いい加減にしろって、阿賀野。しつこく責めるのは仲道さんがかわいそうだ」


助け舟はあさぎくん。攻撃的な阿賀野さんのおかげか、皆私に同情的だ。
気まずくなってか、阿賀野さんは今度はあさぎくんに向かって突っかかっていった。


「なんだよ。お前こそ、そのすかした態度何とかならないの? もってもてのくせにさ、女には興味ありませんーみたいな顔しやがって。お前みたいなのがむっつりスケベって言うんだよ」

「おい、阿賀野。お前もう酔っぱらってんのかよ」


今度は瀬川さんが間に入った。


「うるせぇなぁ。お前だって不満あるんだろ。なんで馬場が主任なんだってさ」


一気に険悪な空気になって、私はますます何にも言えなくなる。
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