王子様と野獣
「……俺が未熟なのは認めるけど、これは今持ち出す話じゃないだろ」
あさぎくんが困り果てたようにいうと、美麗さんが凛とした態度で男性三人に屋のようなひと言を投げかける。
「馬場主任が選ばれたのは上の判断です。少なくとも阿賀野さんでは務まらないことはご自分でもわかるでしょ? トラブルの火種になっているのは大抵あなたですよ」
「なっ、おじょーさんは口挟むなよっ」
阿賀野さんは真っ赤になって反論し始めるけれど、美麗さんのほうが上手だ。ツンと澄まして取り合わないから、阿賀野さんも悔しそうに唇を真一文字にしている。
別に私のせいではないと思うんだけど、この険悪な空気はつらい。
「え、えっと。あっ、これおいしいですよ。ほら、皆さん食べて!」
慌てて揚げ物が盛られた大皿をもって立ち上がったら、予想外の皿の重さによろけてしまう。
「危ないっ」
「おまっ、気をつけろよなっ」
私の肩を掴んで支えてくれたのがあさぎくん。そして、よろけたお皿をこぼれないように支えてくれたのが阿賀野さんだ。
「あ、よかった無事だ。ナイス反射神経です、阿賀野さん!」
そう付け加えたら、阿賀野さんはあきれたような顔をしつつ、「アホかよ」とつぶやき、次に大笑いをした。
「あーもう、お前、そそっかしいなぁ。貸せって」
大皿を受けとり、あさぎくんにお礼を言っている私の肩をポンとたたく。
「……悪かったよ、ネチネチ意地悪して。食おうぜ。せっかくの歓迎会だからな」
「はい!」
なんとなく、阿賀野さんからの敵意が和らいだ気がして、ホッとして席に戻る。