王子様と野獣
すると遠山さんが「百花ちゃん、一緒に飲もう~」と私の腕を掴み、テーブルの向かい側まで連れてきた。
「百花ちゃんっておもしろいねー。でも不思議となごみ系だわ」
「そうですね。……羨ましいわ、そのポヤポヤした雰囲気」
そういいながら、美麗さんも料理の皿をもってやって来る。
「あなたのおかげで、場の空気がよくなった。ありがとう」
美麗さんに照れたようにお礼を言われる。その顔は、いつも澄ました美麗さんからとげとげしさを消して、とっても可愛らしくて、私はなぜか女の人相手に照れてしまう。
真っ赤になった私に気づいて、美麗さんが再び眉をひそめた。
「ちょっと、何よ」
「いえ、美麗さんにお礼言われるなんて思わなくて。……照れちゃいました」
「もう、バカなの? あなた」
「いいねー。百花ちゃん、割とムードメーカーだね」
遠山さんがにやにやと笑いながらグラスを傾ける。
「嫌な空気が続かないっていいことじゃない? この部署に足りなかったことだよ」
私は兄弟が多かったから、いつまでもひとつのことに長くこだわっていられなかった。
一番上だから、我慢しなきゃいけないことも多いし、こだわるよりほかに楽しいことを見つけるほうがずっと自分が楽でいられる。
それが、いいように作用しているのだとしたら、嬉しいかもしれない。
「……ほら、あの三人も仲直りしてるみたいじゃん。主任のあんなにリラックスしてる顔珍しい」
ちらりと男性陣を見つめれば、なんだかんだと楽しそうに話している。
ふと、あさぎくんと目があって、心臓が止まりそうなほどドキドキしたけれど、ごまかすように笑顔を返した。
ねぇ、あさぎくん。
私はあなたの力になれますか。
少しでもなれているのなら、うれしいなぁ。