王子様と野獣
「姉がお世話になっています。……俺、連れて帰るんで。ども」
「お、弟なんです。たまたま飲み会だったみたいで。……あの、弟と帰りますので、大丈夫です。ありがとうございました」
「あ、ああ」
千利の登場で、瀬川さんとあさぎくんは顔を見合わせ、気まずそうに眼を反らした。
「じゃあ、また来週よろしくお願いします」
私は頭を下げて歩き出した。
「うん。気を付けて」
そんなあさぎくんの声が聞こえたけど、千利が腕を引っ張ってぐいぐい歩くものだから、顔を見ることはできなかった。
千利はさっきから不機嫌そう。声もなんだか冷たいもん。
「モモ、顔赤いよ。飲みすぎじゃない?」
「そうだよ。だからそんな早く歩かないでよ、千利」
「あー、ごめん」
千利がぱっと手をはなすもんだから、よろけて前のめりに転んでしまい、結局千利に助けてもらう。
「ううう」
「なあ、さっきの金髪……」
「あ、千利も覚えてた? 昔遊びに行った家の、あさぎくんって男の子」
「やっぱりあいつなの? モモの初恋の王子様だろ。なんで、そんなのと一緒に飲んでんの?」
「職場で再会したんだよ。驚いちゃった」
「……ふうん」
千利はつまらなさそうに唇を尖らせた。