王子様と野獣

一家で遊びに来てくれて、私と千利の遊び相手になってくれた。
出会った瞬間に運命を感じた私は、必死に彼にアピールした。

千利のブロックでガラスの靴をつくろうとして、できなくて泣いても、彼は根気強く私を慰めてくれた。
保育園の男の子だったら、私が泣くと『うるさい』って言ってもっといじめてくるし、千利だったら一緒に泣いちゃう。

そのどちらでもない彼の対応は、すごく大人びて見えてカッコよかった。

家にいたのはたった数時間だったけど、私の目はずっと彼にくぎ付けだった。

だから、帰ると言われた時には本当に悲しくて。周り中が顔をしかめる勢いで大泣きしたのだ。

きっと、彼も困っていた。だけど感情を制御するすべを知らない当時の私の涙は、簡単には止まらなかった。

そしたら、彼は私にハンカチを差し出したのだ。


『ももちゃん、泣かないでよ。また、遊びにくるから』

また来てくれるのかって思ったら、頑張れた。
一生懸命に笑顔を張り付けて、必死の思いで告げた言葉は今も脳裏に残っている。


『あさぎくん、バイバイ』

『うん。またね、ももちゃん』


素敵なキラースマイルに、私の胸はキュンキュンいいっぱなしだったんだよ。

あれこそ王子様。私の夢の理想形! 
現実だったけど、思い出というものは思い出すたびに小さな脚色をされるもので、今ではまぶしすぎて顔を思い出せないほどの美形ということになっている。

だから実際に、顔はほとんど覚えていない。
ただ、間違いないのは金髪だったことと、名前はあさぎくんだということ。
あまり聞いたことのない名前で、珍しかったから印象に残っていた。

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