王子様と野獣

「えっ、えっと、そのあの、……仲道です」

『……モモちゃん?』


名前のほうで呼ばれて、ホッとしたのと同時に顔が熱くなった。


「そ、そうです」

『ごめん。見慣れない番号だったから。どうしたの? あ、なにかわからないことあった?』


あさぎくんの声がワントーン高くなる。
思えば、私は電話番号を教えてもらったけど、私の電話番号は教えてないんだった。
もちろん履歴書には書いてあったけど、あさぎくんはそれを自分の携帯電話にまでは登録していなかったのかもしれない。


「あ、そう。あの、セキュリティライセンスの有効期限が切れましたっていう警告が出ていて……」

『ああ。そういえば今頃だったかな。でも、モモちゃん、ネットにつなげてないでしょう? 外部と繋がっていないパソコンだから、しばらくは放置していても大丈夫だと思う。もし、スマホのテザリングか何かを使ってつなげるようなら更新するけど』


ああ、半分くらい意味不明だ。テザリング……聞いたことあるけどなんだっけ。


「だ、大丈夫です。問題ないんならいいんです」

『そう? あ、あと分かってると思うけど、会社の書類は持ち出し禁止だからね?』

「大丈夫です。美麗さんが教えてくれて……勉強用のサンプル文書もくれたので」

『そう。……さすが田中さんだよね。気が利くなぁ』


そうなんだよ。ツンデレ美麗さんは、実際のところ面倒見は本当にいい。
だからこそ、苦手意識がありつつも私も嫌いになり切れない。

でもあさぎくんが美麗さんを褒めていると、胸が苦しくなってきて、心の狭さに自分が嫌になってきちゃう。

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