王子様と野獣
美麗さんの必死な声に、これって聞いたらだめなやつだと思う。
思うけど……、返事が気になって動けないでいる私がいる。
どうしよう。どうしよう。こんなの最低だよ。
ドキドキしながらも見つかるのが怖くて、ドア側に隠れるように私は移動した。
ふたりの会話はまだ続いている。
「だったら余計、……俺は君を傷つけることしかできないと思う」
その返事を聞いたとたん、ホッとした自分に顔が熱くなった。
「どうして? やっぱりほかに好きな方がいらっしゃるんですか? ……仲道さん、とか」
美麗さんの答えに、一気に血の気が引いていった。
思わず扉を押してしまい、ドアノブを握っていたであろうあさぎくんの「えっ」という声に、我に返る。
何やってるの、私。逃げなきゃ。
「答えてください、主任」
涙交じりの美麗さんのか細い声を最後に、私は一気に駆け出し、階段を三階分ほど駆け下りた。
心臓はバクバク、息もゼイゼイ、心の中は罪悪感でいっぱいだ。
「私、……盗み聞きとか最低」
泣きたくなって、二階の廊下でしゃがみこむ。
この階にいる人とはほとんど面識がなくて、綺麗なお姉さんに「大丈夫ですか?」と一度尋ねられたものの、「平気です」と言えば放っておいてくれた。
盗みぎきしちゃったことも、落ち込む要因の一つだけど、一番自分が嫌って思うのは、美麗さんが振られたらしいことに、こんなにもホッとしてしまったことだ。