王子様と野獣
あのとき、これが運命の出会いだって思ったんだよねぇ。
だから『また遊びにくるから』って言葉を疑ったりしなかった。
それどころか妄想しまくったよ。
これからも何度か遊んで、ほのぼのとした幼馴染時代を過ごし、ほんの少しのすれ違いから離れた期間もありつつ、再会してからは大人としての恋を育てていくはずって。
ガラスの靴はなかったけれど、その約束が私たちをつないでくれるはずって。
でも全然そんなことなかった。
だって、あさぎくんはあれから、一度も家に来なかった。
また来るっていう言葉を信じていた私にとっては、それは手痛い裏切りだった。
信じて一年間待っていた。
疑いだしてまた一年。
嘘つき、と彼を心の中でなじるようになったころには、私は小学三年生になっていた。
あれは泣いた女をなだめるための体のいい文句だったってこと?
男なんてっ、男なんてっ、女の純情を何だと思っているのよ。
初恋だったのに。初恋の人が嘘つきなんてあんまりだ。
『そんなの、信じるほうがバカなんじゃない?』
友達に話しても、そう言われることが増えてきて、それから初恋の話はしなくなった。
彼の輪郭もおぼろげになっていく。なのに、忘れられずにいる金の髪。
高校生になって、いつまでも初恋にしがみついているのは馬鹿らしいと、告白してきた男の子と付き合った。
だけど、押し倒されそうになって、反射的に投げ飛ばしてしまって、結果別れてしまって。
それ以来、“野獣”というあだ名がついた私に、恋をするような男の子などいるはずもなく。
途中から、もうあきらめた。
いいもん。だったらひとりで生きていけるようになればいいんだから。
専門学校行って、就職して、ひとり暮らしを始めて、順調に言っていたかと思われた私の人生。
ここに来て崖っぷちに出てしまうとは思わなかった。