王子様と野獣


「……にぎやかですね」


美麗さんは美しい顔に力ない微笑みを浮かべている。


「美麗ちゃん、おやすみじゃなかったの? 大丈夫?」

「平気です。それに、遠山さんの送別会があるんですもん。這ってでも出ますよ」

「本当? 嬉しいなぁ」


ふたりの会話を聞きながら、私の心臓はドキドキしっぱなしだ。

美麗さんは、私があそこで立ち聞きしていたなんて知らないだろうけど、こっちは勝手に気まずいよ。
見つめていると彼女と目が合い、彼女は私を吟味するようにじっと見つめる。
先にそらしてしまったのは私のほうだ。

美麗さんは一度ため息をつくと、そのままあさぎくんの席までまっすぐに歩いていく。


「遅れてすみません、主任」

「いや。……体調は大丈夫?」

「はい。おかげさまで」


ふたりの会話は昨日何かがあったなんて思えないくらいいつもどおりだ。


「それより、頼まれていたものなんですが……」


仕事の話にスライドしてからは、ますます美麗さんの本心もあさぎくんの動揺も見えなくなった。
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