王子様と野獣



そして夜。
送別会は十八時半スタートなので、定時上がりの私と遠山さんは、ふたりでお店をぶらぶらしながら時間をつぶしていた。


「寂しいです、遠山さん」

「私も寂しい。いや、絶対何か動きがあったと思うんだよね。美麗ちゃんと主任。くうっ、これからってときにここを去らねばならないなんて」


遠山さんのゴシップ好きは健在らしい。
のぞき見しちゃったことを知られたら何を聞かれるか分かったもんじゃないなとヒヤヒヤする。


「……どうしてそんな風に思うんです? 美麗さんが午前休取ったくらいで勘繰りすぎじゃないですか?」

「美麗ちゃんが突発的に休むのは相当珍しいよ。それに、主任が今日は当り障りがなさすぎるんだよ。私たちが騒いでいたときも何にも言わなかったじゃん。いつもだったらやんわり注意するよ」

「あ、そういえば」


ゴリラの話のときか。
すごいな遠山さん。何気によく見てるんだ。


「あれはむしろ無理をして平静を装ってる感じだよね。最近専務にも動きあるからさ。何かあったと思うんだよ、絶対!」

「でも何かあったとしても、放っておいてあげればいいのでは……」

「百花ちゃんみたいな顔に出るタイプならそれでもいいと思うけど。美麗ちゃんだからさぁ」

「え?」

「案外脆いのよ、あの子は。ずっと平静装えるほど強くないんなら、泣いちゃったほうがすっきりできると思うんだよね……あ、来た! おーい!こっちこっち!」


窓の外に歩く四人の姿を見つけて、遠山さんが大きく手を振る。
阿賀野さんと瀬川さん、あさぎくんと美麗さんの組み合わせになって話しながら歩いてくる。
あさぎくんも美麗さんもいつも通りに自然に見える。
私だったら、あの立ち聞きをしていなかったら、ふたりの間に何かがあったかなんて気づきもしないだろう。
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