王子様と野獣



「はい、飲んで飲んでー」


遠山さんは割と酒豪だ。男性陣に早々に注ぎまくり、ちょっと一息という空気になってきたところで、今度は美麗さんのもとへ行く。


「美麗ちゃん、飲もう。ほら、百花ちゃんも」


退職する人を前にそんなに飲めません、なんていうのも野暮だから、注いだり注ぎ返したりしていたら、いつの間にか私も美麗さんも結構飲んでしまっていた。
美麗さんの目が、だんだんと座ってきて、じっと私のほうを見るから、こっちはドキドキが止まらない。


「なぁんで、あなたなのかなぁ……」

「え?」

「おっ、なになに?」


遠山さんが身を乗り出すようにして顔を寄せてくる。


「なんだ、内緒話かよ」


阿賀野さんが割って入ってこようとしたけど、「今は女子トークだからこないでくださいよー」と遠山さんが追っ払い、再び三人で小さくまとまりながら飲む。

アルコールの効果なのか、今は美麗さんを覆う壁が消えているような感じ。
酔った勢いとばかりに、ちょっと冗談めかして美麗さんが口を開いた。


「私、主任に振られてしまいました」

遠山さんは「うん。そっか」とあっさり相槌を打ちつつ、美麗さんの腕に、自分の腕を合わせてくっつく。

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