王子様と野獣
「もったいないと思いません? 私と結婚すれば出世は確実ですよ。政略結婚でもよかったのに。……ダメだって言うんですよ」
「それで? 主任は百花ちゃんがいいって言ったの?」
遠山さんってばなんてことを聞くんだ。でも私も気になるので、口を閉ざしたまま美麗さんの次の言葉を待った。
「いいえ」
しかし返された言葉は期待したものではなく、若干拍子抜けして続きを見守る。
「私がダメとか、他の誰かが好きとかじゃなく、誰とも恋愛する気はないんだそうです。……でも」
美麗さんはちらりと私を見て、きっとにらみつけたかと思うと、すぐに力を失くしたように苦笑した。
「でも私、ずっと主任を見てたんですもん。分かります。……明らかに、仲道さんに対して態度が違うってことくらい」
美麗さんの視線はそのまま、あさぎくんのほうへ向かう。
ほんのり頬を赤くして瞳を潤ませている彼女は、ただ美人ってだけじゃなくて、儚げな色気があって魅力的だった。
「あなたみたいな人じゃなければ、あきらめずに頑張ろうって思えたんだけど」
「え?」
美麗さんの視線が私の上で止まる。
「仕事もどんくさいし、感情は駄々洩れ。正直どうしてあなたなのって思う。私よりスキルが上な人が相手なら、どこまででも頑張って食いついてみせる。……でも、あなたにみたいになろうと思ったら、私、どれだけレベル落とさなきゃならないの」
「うわ……すごいこと言われた」
思わず口から出ちゃって、はっと気づいて押さえたけどもう遅い。