王子様と野獣
「ほら、黙ってもいられない。……でも、それが主任の心を動かすところだというなら、私には絶対無理だもの」
けなされてるのか褒められてるのか分からない。だけど、今にも泣きだしそうなのに、くしゃりと笑って私に強がってみせる美麗さんに胸が締め付けられてこっちまで泣きたくなる。
「わ、私は、美麗さんのこと好きです。素敵だと思う。憧れます」
私の口から出る言葉は、いつだって本心だ。
お世辞なんかじゃない、同情もしてない。それを彼女に、分かってほしい。
「だったら追いついてこればいいわ。私は負けないから。それに、頑張れば頑張るほど主任の好みからは外れるかもしれないわよ」
「でも、私。今のままの自分じゃ嫌ですもん。もっとしっかり……ちゃんと自力で生きれるようになりたい。……美麗さんみたいに」
それは本心だ。
専務のお嬢様だけど、それを感じさせない美麗さんの仕事っぷりは憧れで、私もいつかは派遣じゃなく、ちゃんと正社員としてしっかり働きたい。
「じゃあこれからビシバシしごくわよ! 泣き言なんて許さないから!」
「はい!」
なぜか最終的にスポ根のノリになってしまった私たちを見て、遠山さんは大笑いした後、ふわりと美麗さんの頭を撫でた。
「……美麗ちゃん、頑張ったねぇ」
そのとたん、美麗さんは張りつめていた糸が切れたみたいに、ぶわっと両目から涙を流した。
「……遠山さん」
「ん、なーに?」
「い、行かないでください……寂しい」