王子様と野獣
「あの、ひとりで平気ですから。その……知ってるでしょうけど、その辺の男の人には負けませんし」
「あー知ってる知ってる」
頷く阿賀野さん。くそう、まだ根に持っているのか。投げ飛ばされたこと。
「でも駄目だよ。いくら力が強くても、不意を突かれたら負けることだってある。仮にマウントを取られたら女性の力で男を押し返すことは無理だ。用心しすぎるってことは無いんだから」
あさぎくんのひと言には重みがあって、言葉を詰まらせていると、阿賀野さんが再び割って入ってくる。
「ちょっと待った。だったらやっぱりお前らじゃダメじゃん。馬場の理屈だと、少しでもこいつに気がある男はダメってことだろ。俺が適任じゃん」
え、なんでそうなる?
私に気がない男の人は襲ったりしないってことなの?
それに……その言い方だと、瀬川さんもあさぎくんも私のこと気にしているみたいじゃない。
どんどん心臓の音が早くなっていく。酔っ払っているのもあって、うまく頭が回らない。
どうしよう。だったら自惚れちゃうよ。
戸惑う私の腕を引っ張るのは、あさぎくんだ。
「阿賀野は誰でもいいようなところあるからダメ。瀬川ももちろんダメ。適任なのは俺だよ。……行くよ、仲道さん」
「え? あ……」